日々の徒然

ごはんと旅と、本と犬と。現在バンコク在住。

BOOK

朝倉かすみ『平場の月』光文社

押し寄せてくる、激流ではなくそっと静かにあたたかいものに浸されていくような暮らし。 恋人でも友人でも夫婦でもどの言葉にも当てはまらない、けれど心や、自身のすべてに寄り添ってくるひとりの存在は、真っ白な無音の幸せのように感じた。 美しくもとき…

宿野かほる『ルビンの壺が割れた』新潮社

壮年の男女が、FBのメッセージで会話を交わしていく その会話によって、過去の物語が解き明かされていく。 それぞれの目線での会話以外、実際の動きの描写は全くないので それぞれの人物からどう見えていたか、ということしか書かれていない。 真実が少しず…

松本清張『赤い絹』(上・下)講談社文庫

本に新刊既刊の区別はない。読みたいときに手に取るものだ。わたしにとっての『赤い絹』は、まさにその代表のようなものだった。 バンコクのタイシルク王ジム・トンプソン。マレーシアで失踪した、ということだけは知識として持っていたものの、 その事件を…

桜木紫乃『光まで5分』光文社

生きているのはものすごく面倒で重くて、誰ともかかわり合いになりたくないと思うこともたくさんあるのに、結局人は誰か自分以外の熱を求めてしまうし、誰かを触れていないと生きてはいけない。 明るく爽やかな沖縄の地で、笑顔の塊のような観光客と表裏一体…

椰月美智子『緑のなかで』 光文社

同じように毎日を過ごし同じように人生の途中途中で悩む人がどれだけの数いるとしても、自分の道は自分だけの道だ。双子でも友達でも誰にも似ていない、自分で決めて進まなければならない道だ。素直に思いを表に出せない登場人物たちの姿に、自分や友人や、…

新井見枝香『本屋の新井』講談社

片手でコンビニのお菓子をつまむようにサラッと読める軽快さ。 その中で見え隠れする、独特の方向性を持った頑固さ。 生きていくための無意識の諦め。手放したくない幼稚さ。自分に似た、等身大の人がこの本の中に立っていたことに少し安心する。 日本全国こ…

澤見彰『横浜奇談新聞 よろず事件簿』ポプラ文庫ピュアフル

新しい文化とこれまでの慣習が入り交じる時代の、悩みや葛藤や生き方。立場も人種も違う、けれど違うことは認めた上で、同じ横浜の地に手を取り合い立って毎日を生きていく姿に、現代より人と人との距離が近いことと、そのあたたかさを感じた。本書に出てく…

朱野帰子『対岸の家事』講談社

この著者の、いつものようにとても読みやすい、入りやすい軽快な文章。 なのに読んでいてどんどん胸が苦しくなる、目の離せない迫りくる日常。誰も間違っていない、だけど誰も逃げ出せない日常。 世界は大きく開けているはずなのに一歩も前に踏み出せないそ…

大森裕子『パンのずかん』白泉社

写真のようなリアルさ。けれどイラストだからこその温かさ、かわいさ、本物ぽさ…。むずかしい理由付けせずとも、感覚的な「好き!」がぎゅっと詰まっている一冊。 よくあるものからちょっと珍しいものまで、たくさんの種類のパンを「まるいパン」などの今までな…

斉木香津『幻霙』双葉文庫

確固たる意思を持って生きる、とはつまりどういうことだろう。 時に流されながらそれなりに。その時その時にいいと思える道を。 それもまた間違っていない生き方なのに、気が付けば迷走の中取り返しがつかないところを進んでいる。 正しい解答なんてどこにも…

藤野恵美『ショコラティエ』光文社

抗いきれない時代の波や両親の期待に流されながらも、自らの目指すものを見つけて突き進む登場人物たちの姿は、不器用ながらも羨ましくなるほどまぶしかった。 この先に続く未来の物語をもっともっと読み続けたい。今の時代が彼らの目にどう写るのかを、見て…

クリス・コルファー『ザ・ランド・オブ・ストーリーズ(1) 願いをかなえる呪文』平凡社

ファンタジーで外国文学。苦手意識を持つ人も少なくないかもしれないけれど、本を開いてすぐに飛び込んでくる「白雪姫」の名前に、途端に興味を惹かれる。 “「むかしむかし……」(中略)この言葉を耳にした人には、すぐに招待状が届きます。誰もが温かく迎えられ、…

塩田武士『騙し絵の牙』KADOKAWA

出だしから出てくるいくつもの名前を最初は覚えられず、何度かページを戻りながら読んだ。元々登場人物の名前を複数覚えるのが苦手なせいだけれど。 けれど文字を追ううちにいつの間にかそんなことも忘れ、物語と現実が混ざりあっていく。 歩く度に足元の砂…

工藤ノリコ『ノラネコぐんだん アイスのくに』白泉社

まずかわいい。表紙を見た瞬間に。ページを開いた瞬間になによりもそこにまず、心がときめく。 絵本とは子供のもの。それはもちろんそうだけれど、その水彩のようなやさしい色づかい、コミカルなキャラクターには、もうとっくに子供時代を卒業している身でも…

宮下奈都『とりあえずウミガメのスープを仕込もう。』扶桑社

ゆっくりと木洩れ日の下で歩いているような本。生きていくこと。暮らしていくこと。それらが詰まった、宝物のような本だった。 ひと口ひと口が、料理のひと品ひと品が、今の自分を作り上げていく。手をかけ、命をいただくこと。使う鍋ひとつにも、それを食べ…

瀬尾幸子『うれしい副菜』新星出版社

1冊、自分の横にあるだけですごく安心できる本。 パラパラめくるだけで「これ食べたいなあ」ってメニューがいくつもビジュアルで飛び込んできて、作り方の手順も大体3~4手順でできる。材料も難しくない。お料理慣れしている人にはきっと、当たり前に思いつく…

伊坂幸太郎『AX』角川書店

家庭での暮らしと殺人稼業。どちらにも非日常性や優位性を感じることなく並列で続いていく日々。読み進めるとそれは、とても新鮮な気持ちですとんと自分の中に落ちてくる。これまでの自分の価値観を、ものともしない文章に乗せて。 守るべきものはなにか。一…

門井慶喜『新選組の料理人』光文社

常識も背景も今とは違う、歴史の中のこと。 その舞台にあっても難しく引っ掛かりを覚えることもなく、すんなり自分の中に、物語が染み込んでくる。 家族への思い。進む道への迷い。現代人の私たちと同じ感情は、当たり前だけれど彼らも持っていたのだという…

朝井リョウ『ままならないから私とあなた』文藝春秋

そこで!そこで終わるの!?ままならない突然の幕切れ。けれどその先は、それぞれの胸のうちに、ということなんだろう。 雪子と薫、どちらも痛いほどにまっすぐで強くて純粋で、なのにどうしてこんなにも別の場所にたどり着いてしまうのか。どちらも間違って…

安藤祐介『宝くじが当たったら』講談社文庫

自分自身宝くじを買ったことは一度もない。 けれど、代わりに換金に行ったことは何度かある。連番で10枚買っていれば1枚、下一桁が必ず当たっているからだ。 当選番号を確認したうえで宝くじ販売窓口に行っているのに、番号を調べてもらっている間はやはりち…